品のある年の重ね方
ご利用者様のY様にお怪我をさせてしまった。 原因は私の不注意以外の理由はなく 確実に防げたお怪我だった。 わんちゃんが大好きで昔飼っていたとお話を伺ったことがあったため サンタを抱っこしていただいたところ 足の力で腕の皮膚が剥離してしまった。 ご高齢の方は大変皮膚が弱く 少し考えたら十分予想できたことであった。 翌日、皮膚科にお連れすることとなり ご自宅でゆっくり過ごされたい蒸し暑い日に 車から降りたり乗ったりする動作や 歩行するのも難儀だったにも関わらず Y様は何度も 「すみません」を繰り返されていた。 2時間待ちと言われ そんな長い時間同じ場所で座っているのはお気の毒と 近くの喫茶店で時間を潰すことにした。 「モーニングねぇ。昔っからあんまり行かへんかったねぇ」 「お飲み物は何がいいですか?いろいろありますよ」 「コーヒーですか?」 「コーヒーはホットがいいですか?アイスがいいですか?」 「アイスで」 「すごいですね!Yさん。ナウい!」 と思わず死語を使ってしまった。 ご高齢の方はアイスコーヒーは好まれない、と勝手に思い込んでいた。 改めて 決めつけてはいけない、 と反省する。 昨日のお怪我のことをお詫びする度 「よろしいわ。謝らんといてください」 と逆に私を気使ってくださる。 Y様は何度も何度も 「すんません。これは」 と伝票に触れようとされる。 Y様が雑誌を見ていると あかんスイッチが入り 亡くなった父のことを思い出してしまった。 この喫茶店は いつも父が病院帰りにバスの時間を待つ間一人で寄っていたお店だった。 (今度一緒にここでモーニングしよう)と思った矢先に倒れてしまった。 どうにもこうにも ジワジワと涙が溢れてきてしまう。 私のへなちょこ表情を見て 当然の如く優しいY様は 「どうされたの?」とお声を掛けてくださった。 ティッシュで涙を拭いながら諸々をお話する。 Y様の旦那様も同じ病院でお亡くなりになられたとのことであった。 「旦那は89才やったでね。おたくのお父さん若かったね80才は。まだ若いで余計可哀想やったね。気落とさんで」 と励ましてくださる。